Girl! Girl! Girl! 第二章


<第二章 三成のアルバイト 真相編>


「最初は、口コミで吉継兄さんのケーキの評判が広まっていったんやけどな……」

目の前の分厚いステーキと格闘をしながら、行長が説明をする。
左近から「情報料」としてせしめた戦利品に舌鼓を打ちつつ行長の口は調子よくクルクルと回転を始めた。

「その内にな、時々兄さんの店に来る三成のことが話題なってなぁ。まぁ、あれだけの綺麗どころがしょっちゅう来店するンなら噂のひとつやふたつたってもおかしないやろ? んで、お客さんから三成のことをようけ聞かれるようになったンやて」
「それで?」
「それで、三成目当ての客がわんさか来るようになったンや。まあ、来てくれはるのはええンやけど、その所為で三成目当ての客とそうでない客とのトラブルが発生したり、三成かてゆっくりお茶できへん状態になったりと、いろいろな弊害が発生したっちゅうわけや」

肉を頬張りつつも滑らかに言葉を詰まらせることのない行長の特技に感心しつつ、左近は漸く状況を理解した。

「それで、事態収拾のために、三成さんが来店する日を『バイト日』としたわけですか……」
「流石、飲み込みが早いやん。ま、そういうこっちゃ。この日、来店できるンのは会員登録をした人だけ。勿論、会員規約つう協定も結ばれておるから、三成も安心してケーキとお茶を堪能できるそうや」
「か、会員規約ぅ〜?」
「そうや。ご利用時間は二時間までとか、勝手に三成に話しかけたらアカンとか、プレゼントは店の人に仲介を頼むとか、などなど。勿論、三成のプライベートを脅かすストーカー行為なんて以ての外! つう具合や」

肉を一切れ口に放り込むのと同時に吐き出された行長の言葉に、左近は素っ頓狂な返事を返す。余りの展開になんだか頭痛までしてきた。


     そういや、最近やたらといろいろ貰ってきていたっけ……


アルバイトを始めてから時折、三成がプレゼントの山を抱えて帰ってきていたことを思い出す。実を云えば、三成は日頃から大学でもご近所でも歩けば何かとプレゼントされているし、吉継からもいつも山のようにいろいろと貰っている。
最近の増えたプレゼントもアルバイトを始めたため、その範囲が広がっただけだと思っていたのだが……


     確かに範囲が広がっただけと云えばそうなんだけどねぇ


だが、その範囲も壮大に過ぎる。
香りの飛んだ安物ではあるが、コーヒーで気分を落ち着けようと左近はカップに手を伸ばす。

「なんだか……ホントにどっかのアイドルのファンクラブじゃないですか。で、彼女たちは、会員になって三成さんで目の保養ですか」
「そんなけな訳ないやん」
「ブッ!!?」

コーヒーを一口含んだ絶妙のタイミングを見計らった一言に、左近は盛大に茶色の液体を吹き出した。

「ほ、ほ、ほ、他に何やっているんですかァ! あんたたちッ!!?」
「俺は無関係や」
「関係あろうがなかろうが、この際関係ありません!!」
「どっちや?」
「いいから! で、他に何やっているんですか? とっとと吐きなさいよ!!」
「おっさん。そないに必死になるなや。別に大したことやあらへん。三成の生写真やグッズを販売しておるだけや」
「…………はい?」
「何故か一番の売れ筋は、左近さんとイチャイチャしとる時の写真やいうンやから、微妙に腹立たしいンやけどな」
「………………はい?」

ポンと投げ付けられた発言に左近はカクンと首を傾げる。





10秒後―――――





「って、それは隠し撮りだァァァッ!!!!」

思わず声を張り上げテーブルを平手で叩きつける。周囲の視線が左近と行長に注がれる。が、もうそんなことはどうでもいい。

「大丈夫や。R−18には抵触しとらんから」
「それでも十分立派な犯罪ですッ!! あんたら、肖像権という単語を知らんのか!? 某法律番組よろしく訴えますよ!! 大体、そんな犯罪行為をよくも容認しましたね、大谷さんッ!!?」

ここでハタと左近の思考に何かが引っかかる。

「……ん? ちょっと変ですね。『三成デー』とかいう協定は兎も角、写真やグッズの販売なんて、大谷さんが許すようには思えないんですが……」
「なんや、意外と通じ合っている? 流石、三成つう共通の趣味があると思考も似てくるンかな。あ、左近さんと吉継兄さんって似た者同士か」
「気持ち悪いこと云わんでください」
「なに云うてンねん。このままいけば、左近さんと吉継兄さん、ついでに俺も、一応は義理の兄弟なるンやん。仲良くしてや、ぶらざー♪」
「…………………そ、そうだった」

あえて目を逸らしていた事実を再確認。日本には同性同士の婚姻制度はないが、ここは同人のお約束で目を瞑ろう。
左近は湧き上がった脱力感を押さえて、再度、行長に疑問を問いかける。

「で、大谷さんが三成さんのグッズ販売を許可した理由というのは、いったいどういった理由なんですか?」
「うん、それはやなァ」

常と違う左近の態度を十分楽しんだようだ。行長は至極満足げにこう云った。

「そのうちわかるやろ。だから、今日のところは秘密や」





2008/03/13